軽減特例の適用ミス

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軽減特例の適用ミス

相続税法制においては、数々の相続税の軽減特例が存在します。これらの特例は、法令や通達の解釈が多岐にわたるため、税理士が適用を見落としたり、誤った適用をしてしまうケースが見受けられます。以下では主な軽減特例である、小規模宅地等の特例と配偶者の相続税額軽減措置の紹介と、税理士の責任について解説します。

小規模宅地等の特例

個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等、または、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(「小規模宅地等」といいます)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合(50%~80%)を減額することができる制度です。

この特例は、相続する土地が特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等のいずれかに該当する宅地等であることが必要です。

これらの小規模宅地に該当するか否かの判断は、宅地の形状や利用状況等の事実関係を調査することが必要であり、調査を怠った結果、誤った申請を行い、過大納付せざるを得なかった場合には、税理士に賠償請求することができます。

また、特例の適用を受けるためには、基本的に相続税申告期限までに宅地等を保有することが必要であり、申告期限前に宅地等を譲渡せざるを得ない事情(好条件での譲渡や相続税の納付のための現金化)がないかぎり、税理士としては、依頼者に対して申告期限まで宅地等の保有を継続するよう説明する義務があります。この説明を怠り、依頼者が申告期限前に宅地等を譲渡し、特例の適用を受けられなかった場合には、税理士がその責任を負う場合があります。

この特例の適用を受けるためには、相続税の申告書に、この特例を受けようとする旨を記載するとともに、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付する必要があります。

当該特例の適用を失念して、この特例を受けようとする旨を記載しないまま相続税の申告書を提出した場合には、原則として、事後的に特例の適用を申請することができません(64の9⑦⑧)。

税理士がこの特例の適用を失念し、当初申告において適用要件を正しく理解していれば特例の適用を受けられた場合には、税理士に注意義務違反が認められ、過大納付税額相当額を賠償請求することができます。

配偶者に対する相続税額の軽減措置

配偶者に対する相続税額の軽減措置とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、①1億6千万円または、②配偶者の法定相続分相当額の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。

この軽減措置を受けるためには、税額軽減の明細を記載した相続税の申告書等に戸籍謄本等のほか遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど、配偶者の取得した財産が分かる書類を添えて提出します。
なお、この軽減措置は、仮装行為等によって財産を隠ぺいした場合には、隠蔽した財産については配偶者控除が受けられません(相続税法19の2⑤)。税理士の指示等により財産の無申告等が行われ、のちに隠ぺいが判明し、当該財産につき配偶者控除が行われなかった場合には、配偶者控除が適用された場合の税額軽減額について税理士に損害賠償請求することができることがあります。

遺産分割の未了の場合

小規模宅地等の特例および配偶者に対する相続税額の軽減措置を受けるためには、相続税の申告期限までに、遺産分割が行われていなければなりません。もっとも、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出しておき、相続税の申告期限から3年以内に分割された場合には、特例の適用を受けることができます。この場合、遺産分割が行われた日の翌日から4か月以内に「更正の請求」を行うことができます。

また、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日において相続等に関する訴えが提起されているなど一定のやむを得ない事情がある場合において、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、その申請につき所轄税務署長の承認を受けた場合には、判決の確定の日など一定の日の翌日から4か月以内に分割されたときに、これらの特例の適用を受けることができます。適用を受ける場合は、分割が行われた日の翌日から4か月以内までに「更正の請求」を行います。

これらの分割見込書や承認申請書の提出を怠ったり、これらの書面提出の必要性を説明せず、特例の適用を受けられなかった場合にも、税理士に注意義務違反が認められ、過大納付税額相当額を賠償請求することができます。

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