不動産の価額評価ミス

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不動産の価額評価ミス

相続財産のなかでも高額な財産である不動産は、その価値の評価によって税額が大きく変わってきます。
他方で、不動産は極めて個性の強い財産であり、その形状・性質により、法令の適用が複雑になるため、税理士でも関係法令の適用を見落としたり、誤った適用をすることがあります。以下では特に見落としの多い土地(宅地)の価額評価に関する関係法令について解説します。

宅地の価額評価

相続における土地は、1)宅地、2)田、3)畑、4)山林、5)原野、6)牧場、7)池沼、9)鉱泉地、10)雑種地に分類されます。ここでは問題となることの多い宅地の評価方法についてご紹介します。

宅地の価額は、原則として路線価方式または倍率方式によって評価します。

路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価額のことで、国税庁ホームページに掲載されています。
路線価が設定されていない土地については、固定資産税評価額に一定の倍率(国税庁ホームページに掲載されています)を乗じる倍率法を用います。

路線価方式の手順

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路線価を調べる

国税庁ホームページ等により、該当地の路線価を調べます。

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土地の形状や性質による補正

次に、土地の形状や性質による補正を行います。
土地の形や性質により評価額が変わるため、その土地の形状を確認した上で各種の補正率で調整を行います。

調整には、奥行価格補正、側方路線影響加算、二方路線影響加算、三方又は四方路線影響加算、不整形地補正があります。

さらに不整形地補正には、地積規模の大きな宅地の評価(規模格差補正)、無道路地の評価、間口が狭小な宅地等の評価(間口狭小補正)、奥行長大補正、がけ地等を有する宅地の評価(がけ地補正)、土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価、容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価があります。

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土地の使用状況、権利関係による補正

土地の使用状況や権利関係により、以下の評価方法を加味して算定します。

大規模工場用地の評価、余剰容積率の移転がある場合の宅地の評価、私道の用に供されている宅地の評価、土地区画整理事業施行中の宅地の評価、造成中の宅地の評価、農業用施設用地の評価、セットバックを必要とする宅地の評価、都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価、文化財建造物である家屋の敷地の用に供されている宅地の評価

貸宅地の評価(倍率方式により評価する宅地の自用地としての価額、土地の上に存する権利が競合する場合の宅地の評価)、貸家建付地の評価(区分地上権等の目的となっている貸家建付地の評価)、借地権の評価(定期借地権等の評価、定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額の計算)、区分地上権の評価(区分地上権に準ずる地役権の評価)、土地の上に存する権利が競合する場合の借地権等の評価、貸家建付借地権等の評価、転貸借地権の評価、転借権の評価、借家人の有する宅地等に対する権利の評価

以上のように、土地については、その使用状況や権利関係を調査して土地の利用区分を適切に判断するとともに、上記の各種法定の補正率や評価調整など、評価額を減ずる要素について、法令上の要件があるか否かを調査し、要件がある場合にはこれを適用するなど、価額を過大もしくは過少に算定することがないように適切に評価して申告する義務が税理士にあります。特に、上記の各種法定の補正率や評価調整は、法令の細部ないし個別の財産評価通達に記されており、一般人ではこれらの法令を網羅的に把握し、適用することが困難なため、専門家たる税理士において最も期待される調査事項です。

また、これらの補正率や評価調整を適用するためには、相続税の申告書の作成にあたり、奥行きや間口の長さ等を含む当該土地の形状を具体的に把握し、また、当該土地の利用状況や周囲の特殊事情などについて可能な限り調査を尽くすことが必要です。

これらの調査を怠り、各種法定の補正率や評価調整など、評価額を減ずる要素の適否を検討せず、実際よりも過大もしくは過少な評価を行って申告をし、依頼者に損害を与えた場合には、税理士にその責任をとえることがあります。

個別通達を見落として宅地の評価を誤った場合における税理士の責任

税理士が相続財産たる不動産に適用されうる個別通達(裁判例では、容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価と、都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価の2つの通達が問題となりました)を見過ごしたため、個別通達の適用による相続税の減額がかなわず、依頼者が相続税を過大納付した事例で、適用されうる個別通達が存在する場合、専門家である税理士が基本通達のみの調査で責任を免れるという道理はあるはずがないのであるから、個別通達を見過ごして宅地の評価を誤った場合には、担当税理士はその責任を負うと示した事例があります。

借地権の申告漏れについて税理士の注意義務違反を認めた事例

税理士が建物を相続財産であると認識し、建物については相続税の申告をしていながら、当該建物が建つ敷地については借地権を申告しなかった事例で、税務の専門家として適正に相続財産を評価すべき注意義務に違反する行為であるとして、担当税理士に過少申告加算税及び延滞税等の損害賠償責任を認めた事例があります。

市街化区域内にある土地を市街化調整区域内にあると申告した税理士に注意義務違反を認めた事例

税理士が市街化区域内にある土地を市街化調整区域内にあると誤って過少申告し、依頼者が過少申告加算税及び延滞税の支払いを余儀なくされた事例で、相続財産である土地が市街化区域内にあるか市街化調整区域内にあるかによって課税価格が大きく異なるのであるから、税理士としては土地がそのいずれかの区域内にあるのかを正確に調査確認する義務があるとして、担当税理士に過少申告加算税及び延滞税等の損害賠償責任を認めたものがあります。

路線価を下回る価額で宅地を過少申告した税理士に注意義務違反を認めた事例

税理士が宅地の価額を路線価を下回る価額で申告した事例で、路線価を下回る価額での申告については、当該土地周辺の地価動向の把握や、当該土地の売買価格の適正さの確認、精通者への意見聴取をしたうえで、その申告額が「時価」として適切かどうかを判断するのが課税実務の処理であるところ、価額の適正を裏付ける不動産鑑定士の鑑定書を用意することもせず、税務署に否認される可能性があることも説明しない場合には、税理士の注意義務違反が認められるとして、担当税理士に過少申告加算税及び延滞税等の損害賠償責任を認めたものがあります。

実勢価格が路線価を上回っている場合における税理士の注意義務

税理士は、市街地にある宅地については、原則として、路線価方式による評価をして申告すればその注意義務を尽くしたといえるが、当該宅地の存する地域において路線価が実勢価格を上回っており、実務上も不動産鑑定士の鑑定書による宅地評価が数多くなされ、その地域を所轄する税務署長が路線価方式ではなく鑑定書記載の価額による財産評価を受け入れる可能性が高いという事情が認められる場合には、不動産鑑定士の評価による相続税申告や、すでに路線価方式で行った相続税申告に関して更正の請求をすることを助言し、指導する注意義務があり、このような注意義務に違反した結果、依頼者が当該宅地を過大評価して相続税の納付を行った場合には、税理士がその責任を負うとした事例があります。

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